
NO.525
金と赤との南瓜のふたつ転がる板の間に 【糸車】

NO.526
ここに来てをみなにならひ 【犬吠岬旅情のうた】

NO.527
この人はただ途方もなく無限級数を追ってゐるのか。 【刃物を研ぐ人】

NO.528
そとにひる餉をしたたむるわがよそよそしさとかなしさと 【小景異情】

NO.529
はるきたり あしうらぞ あらしをまろめ 【だんす】

NO.530
かるく やさしく しめやかに 雪のふつてゐる音のやうに おるがんをお弾きなさい 女のひとよ。 【黒い風琴】

NO.531
恐々戸を明けた人は 闇の中に飛沫に打たれて明るく立って居る彼を見る 【村の郵便配達】

NO.532
身すぎ世すぎの是非もなく おどけたれともわがピエロ 【秋のピエロ】

NO.533
朝、ふと眼に浮かぶ 白きボンネットのそのかげ、【砂山の幻】

NO.534
み寺の甍みどりにうるほひ 廂々に風鐸のすがたしづかなれば 【甃のうへ】

NO.535
かうして夜の明けるまで 昨日の悔いの一つ一つを撃ち殺して 時間のやうに明日へ走るのさ 【未来へ】

NO.536
幾時代かがありまして 今宵此処での一と緋と殷盛り(ひとさかり) 【サーカス】

NO.537
ぼむ ぼむ ぼむ ぼうむ ねむくなった星が 水気をはらんで下りてくる 【青い夜道】

NO.538
太陽は美しく輝き あるひは 太陽の美しく輝くことを希ひ 【わびひとに与ふる哀歌】

NO.539
ささやかな地異はそのかたみに灰を降らしたこの村にひとしきり 【はじめてのものに】

NO.540
行行子(よしきり)は鳴く。行行子の舌にも春の光 【富士山】

NO.541
おちこんでゆくこの速さはなにごとだ。なんのあやまちだ。 【落下傘】

NO.542
君らの国の河はさむい冬に凍る 君らの叛逆する心はわかれの一瞬に凍る 【雨の降る品川駅】

NO.543
彼女は第三コーナーでぽとりと倒れた。落下。 【椿】

NO.544
僕は白い雲の中歩いてくる 一枚の距離の端まで 【飛込】

NO.545
少年は小川でドルフィンを捉えて笑った。【太陽】

NO.546
幼きは幼きどちのものがたり葡萄のかげに月かたぶきぬ 【思草】

NO.547
河音の、さやさやさゆる、月の夜に、琵琶とりし子は、ありやあらずや。 【天地玄黄】

NO.548
瓶にさす藤の花ぶさーふさはかさねし書の上に垂れたりー【竹の里歌】

NO.549
髪ご尺ときなば水にやはらかき少女ごゝろは秘めて放たじ 【みだれ髪】

NO.550
釣床やハイネに結ぶよき夢を小さき葉守の神よのぞくな 【『銀鈴』】

NO.551
花蘇吉花ちるころは天平の人におもかげに立てよとぞ思ふ【『わがおもひ』】

NO.552
接吻くるわれらがまへ涯もなう海ひらけたり岬よいづこに 【『海の声』】

NO.553
別るゝ日君が涙のなど熱くわが路かくは寂しく見ゆる 【『まひる野』】

NO.554
君ねむるあはれ女の魂のなげいだされしうつくしさかな【『収穫』】
