NO.566
今はとて柳の糸を手にまきて笑みしおもわの忘られなくに【『つゆ艸』】
NO.567
蜑(あま)の子やあかきそびらの盛り肉の、もり膨れつつ、舟漕ぎにけり 『海やまのあひだ』
NO.568
むらさきの日傘すぼめて上がり来し
NO.569
淋しさに鏡にむかひ前髪に櫛をあつればあふるゝ涙【『かろきねたみ』】
NO.570
往き来人繋きがなかに吾がのぞく欄干の下みづは瀬に立つ【『ふゆくさ』】
NO.571
わぎもこがきぬかけやなぎみまくほりいけをぬぐりぬかささしながら【『鹿鳴集』】
NO.572
母ト二人イモウトヲ待ツ夜寒カナ人間ハゞマダ生キテ居ル秋ノ風 正岡子規
NO.573
春風や闘志いだきて丘に立つ虚子一人銀河と共に西へ行く 高浜虚子
NO.574
上京や友禅洗ふ春の水赤い椿白い椿と落ちにけり
NO.575
早乙女や泥手にはさむ額髪小百姓の梅したゝかに乾かしにける
NO.576
蛙釣る児を見て居るお女郎だすばらしい乳房だ蚊が居る 尾崎放哉
NO.577
竈火赫とたゞ秋風の妻を見る芋の露連山影を正うす
NO.578
鉄鉢の中へも霰うしろすがたのしぐれていくか ー種田山頭火ー
NO.579
鞦韆や春の山彦ほしいまゝ春惜むおんすがたこそとこしなへ【百済観音】ー水原秋櫻子
NO.580
学問のさびしさに堪へ炭をつぐおほわたへ座うつりしたり枯野星 -山口誓子ー
NO.581
バスを待ち大路の春をうたがはず雪はしずかにゆたかにはやし屍室 ー石田波郷ー
NO.582
モジリアニの女の顔の案山子かなルノアルの女に毛糸編ませたし ー阿波野ー
NO.583
づかづかと来て踊り子にさゝやける門前の柿を仰ぎて暇乞ひ
NO.584
陰もあらはに病む母を見るも別れかわらやふるゆきつもる -萩原井泉水-
NO.585
花杏受胎告知の翅音びび朴散華即ちしれぬ行方かな ?川端茅舎-
NO.586
羅をゆるやかに着て崩れざる花散るや鼓あつかふ膝の上 ?松本たかし?
NO.587
蚊帳出づる地獄の顔に秋の風鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる ー加藤楸邨ー
NO.588
燭の灯を煙草火としつチェホフ忌降る雪や明治は遠くなりにけり ー中村草田男ー
NO.589
足袋つぐやノラともならず教師妻谺して山ほととぎすほしいまま ー杉田久女ー
NO.590
風邪の眼に解きたる帯がわだかまる雪の日の欲身一指一趾愛し ー橋本多佳子ー
NO.591
あはれ子の夜寒の床の引けば寄る蟇歩く到りつく邉のあるが如く
NO.592
仰向けの口中の屠蘇たらさるるものの種にぎればいのちひしめける ー日野草城ー
NO.593
水枕ガバリと寒い海がある大寒や転びて諸手つく悲しさ ー西東三鬼ー
NO.594
朝焼や水甕を頭に一列に寒しとはこの世のことよ墓拝む ー星野立子ー
NO.595
老師いま昼寝の大事土用東風除夜の妻白鳥のごと湯浴みをり ー森 澄雄ー